赤井 花城川柳句集

めぐる季の花の香りをよすがとし
花野に浸す ひと夏の身の火照り
流離うていつめぐり逢う一期の句
何が起ころうと信じているあした
身をせめぐ一処不住の風の音
命遍く風に生い風に帰す
またの名をかなかな蝉の命透く
花が散る誰も責めてはいないのに
残された時間がこぼれつづける掌
墓一基移してふるさとを失くす
明け暮れの疾さ心の雨季乾季
諦めの数は覚えていない指
橋の名と川の名ばかり美しき
雪月花 いずこで果てる風の旅
きさらぎに生まれてよりの厚着癖
平凡に生きても多き曲がり角
何処へ何処へと一つ覚えの風の問い
火の世紀 風の世紀と果てゆく身
肩少し触れ今生を行き違う
心から笑える人と笑い合う
めぐり逢うみなかけがえのない絆
赤とんぼ行くさきざきの旅の瞳に
無辺際の昔むかしに住む母よ
コンと鳴き化けそう母の指孤
母の眸に猶迷い子の童たり
人恋いの何時とは分かず秋桜
センサーに触れたか恋しゅうてならぬ
迷い来て花野の蝶と道連れに
告げたくて告げたら露と消える愛
まなうらのどの別れにも花が散る
美しい理由で花が散り急ぐ
たかが幾年生きのびたとて雪崩れる身
闇ほのか花掌に掬い掌に余る
灯台の白さを旅の果てとする
春秋の胸の底いの七五調
春が逝く一丁の櫓を軋ませて
何時の日か来よう絢爛たる余生
老犬の耳が昔を追う日向
水に流そう一場の夢として
幻と気付く旅路のさい果てに
原点にある八月の焼け野原
年輪の激しく北に寄るいのち
菜の花の沖飄々と作家逝く
一芸の十七文字と浮き沈む
いのち例えば一本の風の葦
臘梅のほつほつ点る生まれ月
すぐ赤くなる少年のまま老いる
一期とは一会いずれはみな風に

きゃびんへ